伊豆半島は日本有数の鹿の密集地域です。
天城連山の森林は、多数の鹿に林床の下草、新芽、木々の樹皮、枝などを食べられてしまう事態にさらされ続け、被害は深刻です。
林床の植物は激減し、森の木々は倒れ、新しい植物は育たず、生物の多様性は失われる、という山林環境の荒廃も加速度的に進んでいます。
鹿が通ったあとは、
地面から口が届く高さまで、軒並み枝が折られ、葉や枝先が食べつくされていることが多いです。
樹皮も剥がしてゆき、無傷の樹木はごくわずかとなります。
鹿は忌避植物の種類が少なく、多くの植物の葉、茎、実、根、芽、樹皮を食べてしまいます。
樹皮については、
画像のように外側の硬い皮をはぎとり、内側の柔らかい皮を食べます。
そこから菌が侵入し、立ち枯れるケースも多く発生します。
林床に残される植物の典型的な例は、①マルバダケブキ②シロヨメナ③マツカゼソウ④アザミなどの有刺植物⑤トリカブトといったところ。
このような、鹿の不嗜好性植物だけが残され、単種が季節ごとに異常繁茂してしまっている状況が出来上がっています。
山に行けば普通に見られる山野草などは皆無。
また、樹木では有毒植物であるアセビが圧倒的勢いを誇っており、天城山のブナは次世代を担う幼木はない。
生き残っている植物の種類は異常に偏っており、また少なく、貧相で寂しい植生となってしまっています。
植生は、そこに棲む動物にも影響を及ぼします。
餌や住まい、産卵場所などになっていた草木の恵がなくなれば、棲めなくなる動物が増えるのは必定。
植物も動物も、かつてのそこにあった、豊かな共生の場が失われ、生物多様性とは程遠い森への道筋を辿っているのです。
では、山体自体はどうでしょうか?
下草がなくなることで、降雨の度に表土が流され、豊かな山の土壌はみるみる失われてゆきます。
本来の、黒くふんわりとした土はもう見当たりません。
山は本来、天然のダムの役割を担うものです。降雨を地中に溜め、ゆっくりと麓に返してゆく。
その課程で、山は豊かな緑を形成し、二酸化炭素を酸素に変え、蒸散作用で気温の急激な上昇を防ぎ、麓の町への水害を防ぎながら生活に必要な水を供給し、海には豊かな水を注ぎ込む。
しかし、今、
山がはげ山になることで、山の保水力は一気に落ちています。
1cmの土壌が出来るのには100年の年月がかかるときいたことがありますが、この画像のように何十センチもの土が流出してしまうまでにいったい何年かかったのでしょう?
山の至る所で倒木がみられます。
特に、人工林は造林時、挿し木で植林しているため、深い直根がなく、浅い根だけで支えられているため、倒れやすいです。
あちこちで地崩れも増えています。
倒木や地崩れのあとは、実生で新たな樹木の芽が出ても、鹿が食べてしまい、もう再生はできません。
かつてのこの地に存在していた、鹿も含む、あらゆる動物、植物が、再び共生できる環境をとり戻すために何をすべきなのか。
もう一度人々が、自然の恵を大切に守りながら、その恩恵を享受できる、そんな山と人とのかかわり方をとり戻すために何をすべきなのか。
そして、その環境保全活動を
無理なく継続してゆくためにはどうしたらよいのか。
この命題と向き合いながら
わたしたちは活動を続けています。